Startup Workshop Vol.1 #suws はてな代表取締役 近藤淳也氏の講演

近藤:皆さん、お疲れさまでした。

(一同:お疲れさまでした)

近藤:ちょっと、あまりに盛り上がりすぎて時間おしてる(笑)。短めに終わりたいと思いますけども。

 本当にたくさんのアイデアが出て、すごい面白かったなっていうふうに思ってます。皆さんも感じられてるかもしれないですけど、「こういうのやってみて良かった」とか、機会さえあれば、わりとアイデアっていうのは出せて、ものを作る設定も考えて、サービスは生まれると思うんですね。
 今日集まったのは4時すぎで、4時すぎからたった3時間で今だけの数のアイデアが出て、しかも、人の話を聞いてる時間もあったと思うんで、実質2時間ぐらい集中してやると、けっこうサービスって生まれると思うんです。

 で、今日のアイデア、始まるまで全く知らなかった人どうしで考えたわけですけど、会社作ってやったら、それなりにヒット・サービスになるアイデアがいくつかあったと思ってます。

 世の中、最近スタートアップのイベント色々ありますけど、変わらないですよね。全部(聴取不能00:01:12 ミエルミエル)が。なんで、そういうもんだっていうふうに思っていて、そういう機会をとにかく作っていくことで、サービスはどんどん作っていけるんだと思います。

 それからもういっこ、ものを作るときですね、今日はちょっとフォーマットを通して感じていただいたかもしれないですけど、ひとつ、僕がすごい大事だと思ってることがあって、アイデアを出したり形にする時に、「多人数で喋る」という時と「独りで考える」という時と挟むと、けっこうアイデアが出やすいです。

 いきなり喋って、ずっとみんなで喋って全部終わるというのをやると、やっぱり発言力の大きい人に引っぱられる。それから、独りだけだと、発想が自分の頭の中に限られる。

 みんなの前で喋っていると、反応とか見ながら、なんだかんだで自分のアイデアをブラッシュ・アップしたりする。そんな刺激を受けて、また次のアイデアを考える時に、そのフィードバックを受けてやるっていうことができて、独り・多人数・独り・多人数で挟むと、けっこういいっていうふうに感じています。

 僕たちが普段サービスを作る上で、僕自身がすごく大事にしていることをいくつか、まあ3つぐらい話して終わりにしたいと思うんですけど。

 まず1個目が、《具体的な課題を解決しよう》ということです。

 (スライド)これは、僕の父親なんですけれども、僕が人力検索はてなというサービスで「はてな」を始めた、一番最初のきっかけというのは、父親が検索をするのをすごい苦労してまして、こうやってやったらすぐ検索できるのにと思うんですけど、なかなかうまいキーワードとか入れられないっていうのを見ていて。
 これ僕が、こうやって入れたらいいよと教えるのもいいですけど、こんなことを全人類にみんな教えなきゃいけないのかみたいな、ちょっと絶望的な気持ちになって、父親でも簡単に使えるような検索エンジンを作りたいという思い、一心(一瞬?)で人力検索のアイデアを考えて作ったんです。

 それから、はてなの今一番大きいサービスとして「はてなダイアリー」というブログのサービスがあります。このサービスを作るときも、世の中的には、ブログのブームが来るとか、そういうことが言われてる時期だったんですけど。

 僕自身が大学の時に、自分のホームページを作って、毎日日記を更新してたんですね。当時は、HTMLを直接書き換えて、毎日毎日HTMLで、新しいPタグとか書いて、1日ぶん書くわけですよ。それをFTPで上げて日記を更新すると。さらに、人からフィードバックをもらいたいからどうするかっていうと、掲示板のCGIをどこかからひろってきて(笑)、日記コーナーの横に掲示板コーナーを作ってコメントをもらうっていうことをやっていたんです。

 よくよく見てみると、自分の友達のホームページとか、全部同じことやってるんですね。みんながTHMLを更新して、掲示板CGIを置いて、その2個を基本コーナーみたいな感じでやっていて。これは本当に滅茶苦茶面倒くさいですけど、ウェブから簡単に日記を書けて、さらに、コメントっていうのはだいたい日記を書いたことへの反応だったんで、それをそのまま日記の下にコメントでもらえたら、それでいいじゃないかということを思いまして。

 そういう仕組みさえあれば、世の中のすごい沢山の人が絶対使ってくれるだろうという確信を持って、自分自身もそういうのが欲しかったし、みんなに使ってもらいたいと思って作ったんです。

 ということで、今日もいろんなプレゼンを聞かれて感じられたと思うんですけど、具体的な問題がありありと見えているサービスって、やっぱり魅力的ですよね。これはこういう時に役立つんです、というのを本当に具体的に言われているアイデアは、使われているところがイメージできるし、結局その人が作る理由というのは、その問題を解決したいっていうところからスタートすると思ってますし。

 さらに、まったく逆を言いますと、次はブログブームが来るんだとかですね、そういうマーケット側の理由からものを作っても全然面白くないですよね。作り手の情熱みたいなものが全然感じない。

 そうじゃなくて、作ってる人がどうしてもこれを作りたい、こういう人を助けたい、という思いでやってるものっていうのはやっぱり一番面白いと思います。最後まで伸びるサービスとはそういうものだな、ということを感じております。

 それから、もう1個が、《とにかくユーザーを増やす》ということです。
 今日これも感じられたと思うんですけど、全然お金の話が出てこない。ビジネスモデルはどうなってるんですかみたいなことはあるかもしれないですけど。

(00:06:01)

 僕はですね、最初はサービスっていうのは、ユーザーを増やすしかない、ユーザーをとにかく増やすべきだっていうふうに思います。

 これもまたさっきのはてなダイアリーの話なんですけども、ブログみたいな仕組みを考えて、これを出せば絶対に沢山の人が使ってくれるだろう、という確信みたいなものがあったんですよ。一方で、そんなに無料で万人の人に公開して、無料で使わせて、そのあとどうなるんだっていうことを思うわけですよ、素朴に。マンションを無料で世界中の人に配って「どうぞ住んでください」って言うようなもので、どんどんサーバーが増えるでしょ。

 だけど当時っていうのは、まだアドセンスも無かった。アマゾンのアフィリエイトも無かった。なので、そもそもブログっていう仕組みをどうやって収益化するかって、全く分かんなかったんですよ。分かんなかったんですけど、とにかくネットサービスっていうのは、ユーザーが増えなきゃしかたない。ユーザーを増やすことが正義だっていう信念を持ってですね、増やしつづけていったんです。

 当時、僕たちは、ネットバブルの直後だったこともあって、特に外部からの出資なんかも受けなくて、かといって自分たちのサービスもうまく収益化できてなかったので、受託開発にしようとしてたんですね。だから必死で他社さんの仕事をこなして、なんとか売上をひいてた(00:07:25)んですけど、そこでかせいだお金をひたすらサーバーを買うのに費やしつづけて。

 「とりあえずユーザーを取るべきだ」っていうことで(笑)、とにかくあるお金を全部サーバー取って、(スライド)これは当時3人でやっていたときに、データセンター、自作のサーバーを並べてメンテナンスをしてる画面なんですけれども、日々、受託仕事をして、夜とか土日とかにひたすらはてなダイアリーとかで、夕方にこうやって「ヒー」って言って「サーバー落ちる!」とか言いながら、どんどん開発していくみたいなことをやりながら、伸ばしていったと。

 そうしたら、なんとかなるもので、その年の暮れに、グーグルのアドセンスっていうのが出てきて、それからアマゾンのアフィリエイトも同じぐらいの時に始まったんですね。これはブログにすごいマッチするなと思って。

 まず、はてなダイアリーはキーワードページがありますので、そこにブログのアドセンスのタグを貼り付けて、それからブログでアマゾンの商品とかを紹介できるようにして。そういうことをやっていったら、サービスが始めて収益化して、そこでようやく、はてなは受託の開発から脱却して、ネットサービスのみで収益を取っていく会社になれたっていう、そんな経緯がありました。

 それを振り返って思うのは、あの時に「一般公開して、お金どうするんだろう」みたいなことを考えて、アクセルを踏むのをやめなくて良かったなと思うんですね。人が増える、ユーザーが増えるきっかけがある時は、全力で踏みきるっていうのが、ネット企業をやる上では正しいことだというふうに思います。

 3つ目は、《強みを組み合わせる》ということです。

 「うごメモ」っていうサービスが今はてなにありまして、任天堂のDSiでパラパラ漫画みたいなのを書けるサービスです。

 ちょっとですね、アイテム課金的な要素を最近やっていて、(スライド)こういう、ちょっとかわいいカエルのいるお部屋を作って、欲しいパーツを買ってもらうと豪華に飾れますっていう「ピョコライフ」っていうコーナーというか企画があるんです。これ、年末に出て人気なんですけれども。

 これを作るときにですね、最近あったのが、ディレクターさんがデザイナーさんと2人で、今までよりも随分クオリティが高くて、もっと収益性の高いアイテム課金のシリーズを作ろうとしていたんです。で、一緒に作り始めたんですけど、なかなか質が上がっていかない。デザイナーに「ちょっとちがうな」と指示をしてるんですけど、なかなかデザイナーもピンときてなくて、クオリティが上がっていかなかったんです、画像が。

 そこで、デザインをしないんだけどデザインのディレクションはできるアート・ディレクターっていう人間をあいだに置いて、クオリティを上げた。そうすると画像の質が上がっていくんですけど、じゃあ次に、このカエルいるけど、これはなんなんだっていう話に1回なって。それも、なかなか詰まらないので、またディレクターさんとアート・ディレクターさんの間に企画の担当の人を置いて、その人が世界観を考えたりしましょう、というふうにやって。

 そうしたら、これは実は画家志望の、絵描きになりたいカエルなんだけど、今のところまだ絵を描くのは下手なんですっていう。そういう設定のカエルなんですけど、そのカエルがある日、何でも描くと生きものになって動きだすみたいな魔法の筆をひろう。そういう町の物語ですみたいな、すごい世界観になってきて、非常にクオリティの高いサービスになった。

 実際、過去最高のユーザー数を今更新していて、課金の売上も(聴取不能00:11:20 6倍?)になるみたいなことが、最近あったんですね。

 それがすごく印象的だったんですけど、何が言いたいかっていうと、それぞれ人って得意なものがあるじゃないですか。その強みをうまく組み合わせるっていうことが、組織を作る上ですごく重要だと思うんですね。

 さっきのように、手を動かしてデザインする人もいれば、デザインのクオリティをみる人もいれば、企画を考える人もいれば、全体の収益性っていうのを見て責任を持っている人もいる。誰がえらいとか、そういうもんではなくて、それぞれの人の強みをうまく生かす。そうすることで、独りでは決してできないようなものを作っていく。

(00:12:01)

 それが、チームを作る、あるいは、会社・組織を作っていく上ですごく大きなポイントかな、というふうに感じています。

 スタートアップをやり始めると、創業者とか最初にいる人って、万能型の人が集まると思うんですね。何でもできるっていうタイプの人が集まりがちだと思います。
 ところが、だんだん人が増えていくと、必ずしも何でもできるわけじゃないけど1個のことがすごい得意っていう人がだんだん増えていきます。

 その時に、僕が自戒を込めて学んだことがあって、何か得意なことがあるんだけど他のことができない人に対して、その人のできない部分を指摘するっていうのは本当にムダなことで、特に、最初にいる万能型の人と比べて「あの人はこれはできるんだけど、これができない」とか言ってもしかたがない。

 そういうことじゃなくて、新しいプロジェクトを一緒にやろうっていうところに飛び込んできてくれた人の強みを、いかに組み合わせるか。それが、最初のスタートアップが組織として成長していけるきっかけをつかめるかどうかの大事なところかな、というふうに思います。

 ということで、以上ですが、はてなはちなみに(場内爆笑)、今日みたいに楽しい感じで新サービスをガンガン作ってるんで、(聴取不能00:13:23 **)くれたら、連絡ください。

 まあ、宣伝は置いといて。最後ですけど、はてなの社内でいろいろこうやってサービスを作るためのメソッドというか、いろいろな方法論を開発したりしているわけです。

 なんでわざわざ今日、東京まで3人でやってきて、その秘密のノウハウを皆さんに共有しているかっていうのは、自分でもなんでなんだろうって思ったんですね。(一同笑)「なんでこんなことやってるのかな」って。特にね、お金もらえるわけじゃないのに(笑)。

(一同:笑)(声:すいません。)

 まあ、でも僕思ったんですよ。とりあえず、日本のネット業界が世界で戦えるようにならないといけないだろうと思うんです。

 日本のウェブの業界って、アメリカとかでシリコンバレーとかで、はやったサービスをとにかく早く日本市場に導入して、市場を取れれば金儲けができるっていう、そういう方法論できてるじゃないですか。「できてるじゃないですか」って言い切るほどじゃないかもしれないですけど、でもそういうところはあったと思います。

 そういう時に大事なのって、海外で今、何がはやってるんでしょうという、新しいサービスのヒットしている情報を取るっていう、情報戦だったわけですよね。

 ところが、昔はアメリカのブログと日本のブログは、余白とスタンダードのサービスが違うという状況があったんですけど、今やツイッター、フェイスブックという完全に同じプラットフォームが同時進行で入ってくる。そうなると、時差を使って日本だけで儲けるとかって、完全に終わってるわけですよね。

 逆にいうと、世界完全横並びで、みんなが同じものを使っているところから、一歩抜けだすって自由じゃないですか。今はこういうサービスがあって、もっとこういうふうなのがあったら面白くないですか、って世界中に出せるのは、世界の人と全く同レベルで僕たちは知ってるわけで、そこから一歩抜けだすのは自由だと。

 ただその時に、方法論を変えなきゃいけないと思うんですね。それは何かっていうと、ものを作るっていう、本当に新しい価値を作りだす、生みだすっていうことを研ぎ澄まして、世界の人が見ても面白い、それから満足できるクオリティのものを作りあげるっていう、もの作りの方法論っていうものがもっと洗練されて、どんどん面白いサービスが出てくる状態にならないと、世界と戦えないなっていうふうに思っていて。

 まあ、新卒の学生を「ソーシャルゲーム各社に行かずにうちに来てください」とかってパイの取り合いしてるのもいいですけど。そもそも、いろんな会社にいくじゃないですか。今でも、悲しいかな例えば京都大学の学生さんとかされていると「お父さんお母さんが東証一部上場企業に行けって言うんです」とか、「やっぱりメーカーに行きたいです」とか言って、ちょっと旧来型の産業のほうに行きたいっていう学生さんが、今でも、優秀な方でも多いなって僕は感じるんですけど。それはなぜかっていうと、面白くないと思うんですよ、面白くないと思われてるからだと思うんですね。

 それはやっぱり、今まで、ひとのモノマネで、ちっちゃい市場でお金儲けをしようとしてたっていう、そういう僕たちにも原因があると思うし、そうじゃなくて新しいものをどんどん生みだして、本当に世界に向けて戦っている状態になっているっていうのが、最強の人材獲得戦略だというふうに僕自身も思ってますし、それは別に僕たちの会社だけの話じゃなくて、全体としてそういうことを盛り上げていくべきだと僕は思ってます。

 ということで、僕たちができる限りのノウハウを皆さんと共有させていただいたつもりですので、ぜひ皆さん、何か得たものがあればと思いますけど、今後もお互い切磋琢磨して日本のウェブ業界を盛り上げていきましょう。

 今日はどうもありがとうございました。

(拍手)

司会:それでは3時間超、オザワさん、近藤さん、本当にありがとうございました。再度、もう一度拍手をお願いいたします。(拍手)