編集部注:本記事は、パジ(安宅基)が2025年2〜3月に配信したVoicy「AIエージェントと自動開発」を書き起こし・再構成したものです。語られた当時の温度感を残しつつ、読み物として整えています。発言中の「予想」と「事実」は区別して記しています。
あなたは今日、AIに「手伝ってもらった」と思っていますか。
それ、逆かもしれません。AIエージェントがメインで開発して、人間はその方向がちょっとズレたところを直すだけ——どっちがコパイロット(副操縦士)なのか、もう分からない。そういう段階まで精度が上がってきています。
2025年の年明けから、チャットで、画像で、動画で指示を出すと、人間でもかなり難しい部類のシステム開発をAIエージェントが完成まで持っていく。それを見て、パジは正直ゾクっとしました。半年後、1年後には、これが非エンジニアの世界にまで広がる。ディレクター、プロデューサー、デザイナー、そしてエンジニア自身の仕事まで、根っこから揺らし始めます。
「コパイロット」という言葉が、静かに死につつある
少し前まで、AIは「副操縦士」でした。主役は人間で、AIが横で補助してくれる。コパイロットという言葉が、その関係をきれいに表していたんですよね。
ところが今、その構図がひっくり返りつつあります。手を動かして作っているのはAIエージェントのほう。人間は、出てきたものが意図と少しズレているときに「いや、そっちじゃない」と方向を直す。要するに、操縦桿を握っているのがどっちなのか、曖昧になってきた。
ここがこの話の出発点です。「AIが便利になった」という話ではありません。主従が入れ替わりかけている、という話なんです。
実際に触ってみると、まだ一発で指示通りには動きません。「こう作って」と言っても使用通りには仕上がらず、細かいポイント開発や設定で、むしろ人間側がボトルネックになるケースも多い。でも、それは「AIがまだ未熟」というより「人間の指示が追いついていない」に近い感覚なんですよね。主役が交代したのに、台本の渡し方が昔のままだ、という違和感です。
先行しているのは、意外にもビッグテックではない
もうひとつ、現場を見ていて面白いのがここです。
自動開発までやってのける新しいサービスを先行して見せているのは、オープンAIやイーロン・マスクのxAI(Grok)、Google Geminiといったビッグテックだけではありません。むしろスタートアップに近い領域や、中国産の開発勢が今回かなり名乗りを挙げている。これに特化した作り方をしている分、収録時点の2025年3月中旬では、彼らのほうが先行して見えるんです。
ただ、ここには明確な弱点もあります。サーバーが安定しなかったり、人数を制限していたり。クラウド環境やデータセンター、つまりインフラそのものを自社の主宗(しゅそう)に収めているトップ企業には、規模ではかなわない。
だからパジはこう見ています。今、先行ベンチャーが見せているのは「完成品」ではなく「ロールモデル」だと。
どういうUIなら、どういう指示の出し方なら、AIエージェントが自動開発していけるのか。その実際の体験とデモができている状態こそが、後から追いかけるトップAI企業の強烈な手本になってしまう。
そしてビッグテックが、潤沢なインフラと推論モデルを含んだ「複合的なアプローチ」でここに乗り込んできたとき——今より精度の高い、よりリッチなシステムが勝手に組み上がってくる。それが3カ月後、半年後にやってくるとしたら、業界どころか世界中が唖然とする瞬間になるんじゃないか。これはパジの予想です。事実ではなく、現場の手応えからの読みとして書いておきます。
【パジの独自フレーム】自動開発時代に、人間に残る4つの層
ここからが本題です。「じゃあ人間は何をするの?」という問いに、ぼんやり答えても仕方ない。AIエージェントが開発の主役になった世界で、人間の役割がどこに退避していくのかを、パジは4つの層で整理しました。名付けて「方向・編集・責任・問い」の4層です。
第1層:方向(ディレクション)— 何を作るかを指し示す
AIエージェントは「作る」ことはできても、「何を作るべきか」を最初に決める起点にはなりにくい。チャットや画像、動画で「こっちに行ってくれ」と方向を与える役割は、当面いちばん人間に残ります。ディレクター職やプロデューサー職の本質が、ここに凝縮されていくとパジは見ています。実装力ではなく、行き先を指す力です。
第2層:編集(ズレの修正)— 出てきたものを直す
一発で意図通りには動かない、と先ほど書きました。だからこそ、AIが出力したものを見て「ここがズレている」と判断し、軌道修正する層が必要になる。これは元々、原液でパジが「人間はそのちょっと方向がずれてしまうところの手助けをする」と言った、まさにその役割です。デザイナーやエンジニアのセンスは、ゼロから作る場面より、この「直す目」のほうで効いてきます。
第3層:責任(ガードレール)— 壊れていないかを担保する
トップエンジニアからすれば、今のAI自動開発はまだおもちゃに見える。セキュリティホール的なところを考えれば、実践にはまだ向かない——これは事実として、現場の本音です。だからこそ、精度をそこまで求められないプロトタイプ用途から入りつつ、「これは世に出して大丈夫か」を担保する責任の層は、むしろ価値が上がる。AIが速く作るほど、止める側・点検する側の重みが増すんですよね。
第4層:問い(なぜ作るのか)— 目的そのものを問う
そして最上層。煩雑でアナログなところをデジタル化し、自動運用していく未来は、もう誰でも簡単に作り出せる。インスタント的なアプリやウェブサービスが、ある意味無限に生まれてくる。これはほぼ確定的な未来だとパジは思っています。だとすると、希少になるのは「作れること」ではなく「なぜそれを作るのか」という問いそのものです。無限に作れる時代に、何を作らないかを選ぶ。これが最後まで人間に残る層です。
この4層は、上にいくほどAIに置き換わりにくい。逆に言えば、第2層・第3層の「直す・点検する」は当面残るけれど、純粋な実装作業は下から順に溶けていく。自分の仕事がこの4層のどこに重心を置いているか。それを一度棚卸ししておくと、これからの数年をかなり落ち着いて見られるはずです。
行き着く先:人間が関わらないほうが、うまく回る
では、この流れはどこまで行くのか。原液でパジが最後に語ったのは、けっこう怖い未来でした。
サービスの提供側がAIになる。SNSの評判チェックや、お問い合わせから来るカスタマーサポートの対応もAIになる。そして——その頻度や深刻度に応じて、不具合や評判の悪化をAIエージェントが自分で見つけ、開発・改善まで自動で走らせる。AIによるAIの自律的な改善プログラムが動き出す。
こういうシステムを組むこと自体が、そんなに大変じゃなくなる。そうなると、オンライン上で何かが動いているとき、人間が関わらないほうがむしろスムーズにプロダクトが成長・グロースできる、という状態にすらなっていく。
「AIが自動的に、人間にとって価値ある経済活動・生産活動をしてしまう」。これを一種のAGIの定義に含めるなら、AIエージェントが今もたらしているのは、その入り口です。これはパジの解釈であって、確定した定義ではありません。ただ、巨大なインパクトを持つ話になってきているのは、触れば触るほど感じます。
ディープリサーチが、Google検索を一掃する
もうひとつだけ。日常のレイヤーでも地殻変動が始まっています。
ディープリサーチが、Google検索を一掃しつつある。これは大げさではなく、実際にそう感じる場面が増えました。そしてその先には、AIエージェントに自動開発や何かの依頼・発注を、日々、しかも同時に何件も投げ続けるような使い方が待っている。メールやウェブサイト、SNSと同じ「使わざるを得ないインフラ」として、AIエージェントが組み込まれていく。これはほぼ確定だとパジは見ています。
このVoicyを聞いてくださっている皆さんは、インターネットもブロックチェーンも、新しいテクノロジーのいいところを積極的に取り入れてきた方が多いはず。だとすれば、AIエージェントだけ様子見、というのはおそらく成り立ちません。
結局、いま備えておくべきこと
整理します。AIエージェントが開発の主役になり、人間はコパイロット側に回りつつある。先行しているのはベンチャーだが、ロールモデルを手本にビッグテックが数カ月で追い上げてくる。そして最後は、AIがAIを改善する世界まで地続きでつながっている。
そんな時代に、あなたの仕事は「方向・編集・責任・問い」のどの層にいますか。
もし、純粋に「作る」ことだけで価値を出してきたのなら、重心を一つ上の層へずらす準備を、今から始めておく。逆に、行き先を指し、ズレを直し、なぜ作るのかを問える人は、むしろこの波に乗れます。どっちがコパイロットか分からない時代は、裏を返せば、人間が「操縦桿のどこを握るか」を選び直せる時代でもあるんですよね。
ここからは、本当に目が離せません。
今日はここまでここまで、バイバイバーイのバイ!