編集部注:本記事は、パジ(安宅基)が2025年6月にVoicyで配信した「AIが人と人とのコミュニケーションの間を取り持つ時代」の書き起こしを再構成したものです。個別のサービスの仕様は配信当時のものですが、「AIがコミュニケーションの間に入る」というテーマ自体は普遍的なため、当時の語りを保って再構成しています。
SNSの炎上は、人間同士が「直接」ぶつかっているから起きています。
10年後、20年後の未来から見たら、その「直接」こそが野蛮だった——と言われるかもしれません。
人と人の間にAIが挟まって、感情の摩擦を吸収していく。私はこれを「AI仲裁レイヤー」と呼んでみたいと思います。Xのタイムラインで起きているGrokのファクトチェック、カスタマーサポートのAI一次受け、そしてプロ野球選手の代理人交渉。バラバラに見えるこの3つは、実は同じ未来の入り口なんですよね。
すでに始まっている「間に入るAI」
分かりやすいのが、Xのタイムラインです。誰かの投稿に対して、Grokがファクトチェックを入れていく。「この主張はちょっと大げさ」「事実と異なる部分はここ」と、人間と人間の間に立って指摘してくれる。
面白いのは、そこに多少アルゴリズム上のバイアスがあったとしても、大きなポジショントークを繰り出す人間が間を取り持つより、「中立に見えるAI」のほうが信用できる——という受け止めが生まれていることです。
カスタマーサポートでは、オペレーターの一次受けがAIの音声対応やチャットボットになるのはもう当たり前になりつつあります。そしてプロ野球選手が代理人を立てて交渉するように、コミュニケーションのプロとしてのAIエージェントに「交渉そのもの」を任せる使い方は、今後ますます増えていく可能性が高い。
「AI仲裁レイヤー」とは何か
構造として整理すると、こうなります。あらゆるコミュニケーションを、一旦AIが預かる。感情のやり取り、事実確認、条件のすり合わせといった摩擦の大きい部分はAI同士・AI対人間で処理して、最終的に責任を取る場面、大きな意思決定をする場面だけ、AIが人間の決裁者に確認を取りに来る。
人間は「主」として決定と責任を持ち、その手前の摩擦をAIの層が吸収する。これがAI仲裁レイヤーです。
背景には、AIの進化が二次関数的に加速しているという事情があります。技術が技術自体を改善していくプロセスに入りつつある今、こうした「間に入る」役割を担えるだけの精度が、現実に整ってきてしまった。使う人と使わない人の生産性格差が3倍10倍と報告される一方で、インターネットやスマホがそうだったように、最初は警戒していた人たちも、いずれサービスの裏側でAIが動いている状態を自然に受け入れていくはずです。
SNSはどう変わるか
この層がSNSに実装されていくと、何が起きるか。
価値観の違う者同士でも、AIが共通部分を探して、コミュニケーションを円滑に進める潤滑油になる。投稿する前にAIが「多角的にはこういう見方もありますよ」とフィードバックを返し、発信内容を適切に補正する。人間が単独で、AIの補正なしにネットへ投稿するという行為自体が、文化として消えていく可能性すらあると思っています。
ちょっと考えすぎかもしれません。でも、同じ日本人同士でも価値観の違いで炎上を繰り返す今のSNSが、未来から「非常に野蛮な世界だった」と言われるくらいの変化は、十分あり得る。政治の世界でも、無数の声をAIが集約・圧縮して、人間の認知の範囲に収めて届ける——という形で、すでに「間に入るAI」は動き始めています。
体温は薄まる。それでも進む。そして新しい問題
正直に言えば、失うものもあります。人と人との、体温が通じ合うようなコミュニケーションの濃さは、間にAIが入るぶん薄まる。
そして新しい問題も生まれます。AIのアルゴリズムがコミュニケーションを調整するということは、フィルターバブルのような偏りを、今度は「会話そのもの」に持ち込みかねない。だからこそ、そのAIがどんな価値観を持っているのか、アルゴリズムの中身を適切にチェックする仕組みが必要になる時代に入っていくんだろうと思います。
インターネットが最初に想定していなかった「人間同士の摩擦」という課題を、AIが間に入ることで解決するかもしれない——そんな逆説的な未来です。
次に何かをSNSに書き込む前に、一度AIに見せてみる。それが無礼ではなく礼儀になる未来は、たぶんもう半分来ています。今日はここまでここまで、バイバイバーイのバイ!