IT文字起こし: 安宅 基(パジ)

日本語という1.2億人の壁——AIサービスで日本が不利になる4つの構造

日本発のAIサービスに出番がないのは技術力の問題ではない。言語圏の人口、投資と人材のループ、法への向き合い方、閉じられない立ち位置——参入前から決まっている4つの構造と、半年後のシェア推移による答え合わせ。

出典: 本記事は安宅基(パジ)による音声配信を、書き起こし.com編集部が書き起こし・再構成したものです。 Voicyで元の配信を聴く

編集部注:本記事は、パジ(安宅基)が2026年1月にVoicyで配信した「AIサービス、歴史は繰り返す」の書き起こしを再構成したものです。言及している数値や状況は配信当時のものですが、テーマが普遍的なため、当時の文脈と語りを残しています。記事末に、配信後の答え合わせを編集部で追記しました。

「日本発のAIサービス」。この言葉に、いま出番がほとんどありません。

2025年のAIサービス利用ランキングを見ると、上位はChatGPTとGemini。この2つで大半を占め、しかもGeminiが猛烈に追い上げている。日本国内でも、同じ形の推移が起きていました。

——これ、インターネットで一度見た景色です。

技術で負けているのではないと思っています。負けているのは、参入する前から決まっている4つの構造のほうです。

構造1:言語圏の人口が、そのまま市場規模になる

いちばん単純で、いちばん動かせないのがこれです。

世界人口が約80億人。日本語話者は1.2億人ほど。英語は母語と第二言語を合わせれば十数億人規模で、しかも経済圏として一体化しています。

言語は、市場の外周を決めます。外周が決まれば市場規模が決まり、市場規模が決まればリターンの上限が決まる。インターネットの時代に何度も見た話が、そのまま繰り返されているだけです。

構造2:市場規模が、投資額と人材の量を決めてしまう

リターンの上限が決まると、そこに向かうスタートアップ投資の額が決まります。投資額が決まると、集まるエンジニアとリサーチャーの数が決まる。人材が集まると成果が出て、次の投資を呼ぶ。

このループは、回り始めると差が開く一方です。しかも、そもそもプログラミング言語の語彙が英語でできている。設計書もドキュメントも論文も英語が一次情報。ここでも同じ方向に傾いています。

国も手を打っていないわけではありません。AI基本計画の閣議決定を経て、日本は官民あわせて1兆円規模のソブリンAI投資に動いています。2026年度予算には3,000億円超が計上され、2030年度までの7年間では10兆円超のAI・半導体支援が構想されている。

桁は小さくない。ただ、世界のフロンティアを牽引する位置を取りにいくには、まだ足りないというのが正直な読みです。

構造3:法とルールへの向き合い方が逆

3つ目は制度文化の話です。

まずやってみて、問題が起きてから決める。この順番が、インターネット時代の勝者をつくりました。対して日本は、形を決めてから慎重に進む。大陸法と英米法の思想の違いに近い話で、どちらが正しいという問題ではありません。

ただ、指数関数的に動く技術に対しては、順番のほうが効きます。決めてから動く側は、決めている間に前提が変わる。

もうひとつ、インターネットの時代と決定的に違う点があります。当時は、サービスが世界に広まるまでに数年かかりました。いまは一瞬です。有用なサービスが出れば、その日のうちに世界中で使われる。インフラが整いきってしまったので、後発が地域差を利用して育つ時間が残っていないんですよね。

構造4:閉じるという選択肢も取れない

4つ目が、いちばん語られないところです。

中国のように国内市場を囲い込む道もあります。外を遮断すれば、内側だけで独自の経済圏が回り出す可能性はある。ただ日本は、日米同盟を含めた立ち位置からしてその選択を取れません。

グローバルには開いている。でも言語圏は小さい。制度は慎重。閉じることもできない。——結果として、どの戦法も中途半端になりやすいポジションに立っています。

これは悲観の結論ではなく、条件の整理です。条件がわかれば、勝ち筋は「フロンティアで勝つ」以外のところに探せばいい。日本語と日本文化に閉じた領域の深さは、外から来た巨人が最後まで取りにくい場所として、たしかに残ります。

編集部追記:2026年8月時点の答え合わせ

この配信は2026年1月9日です。半年後の数字で確認すると、Geminiの追い上げという読みは、想定を超える形で当たりました。

Similarweb系の集計では、生成AIの世界Webトラフィックに占めるChatGPTのシェアは1年前の約76%から2026年7月下旬には約53%へ低下。一方Geminiは2026年1月時点の18.2%から5月には27.9%まで伸び、訪問数は2025年5月の約5.3億から2026年5月の約29億へと約450%成長しました。Claudeも同月時点で9.2%、約9.5億訪問と、前年比で大きく伸びています。

2強の顔ぶれと、そこに日本発のサービスがいないという構図は、半年経っても変わっていません。構造の話をしていたので、当然といえば当然です。

なお本文の投資額について、配信では「国が主導した3兆円規模」と述べていましたが、公表されている枠組みは官民あわせて1兆円規模(2026年度予算3,000億円超、2030年度までの7年間で10兆円超のAI・半導体支援)でした。ここは編集部で訂正しています。

4つの構造のうち、あなたが手を出せるのはどれでしょうか。

1と4は個人にはどうにもなりません。2と3は、自分の会社の中でならひっくり返せます。まずやってみて、あとで決める。それだけでも、構造の一部は無効化できます。今日はここまでここまで、バイバイバーイのバイ!

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安宅 基パジ

あたか はじめ

連続起業家・現役スタートアップ経営者。2011年Tokyo Otaku Mode共同創業、海外2,000万人規模メディアから越境EC・翻訳・広告・配送代行まで自社一気通貫で推し活文化を世界に届ける。ゲーム攻略本ライター→Webディレクター→フリーエンジニアで起業、複数事業バイアウト経験。スタートアップとブロックチェーンに精通し、ゼロからの事業創出と新技術のかけ合わせを得意とする。最近のイチオシはAIバイブコーディング。

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